「人は仕事で磨かれる」丹羽宇一郎・著。
著者は伊藤忠商事の会長(前社長)。
テレビで初めて丹羽さんを見た時には、あまりに「普通の小父さん」で驚いた。
我々世代(1980年頃)の伊藤忠商事は、就職人気ランキングでトップを争う商社だった。バブル以降はどこの商社も苦戦を強いられているようだが、我々世代は「商社」にあこがれを持つ者も多いはず。
その伊藤忠商事の社長の丹羽さんには「社長の風格」が、正直言うと感じられなかった。
さらに驚いたことは、その「普通っぽい出で立ち」からは想像できないような、歯に衣着せぬ物言いである。
テレビ朝日・サンデープロジェクトの田原さんとのやりとりで、田原さんのするどいつっこみに、スパッと応える。気持ちよい。
丹羽さんは、社長になる時に「任期は6年」と公約した。
「6年たったらタダの小父さん。そうなることがわかっていますから、最初からタダの小父さんの生活を続けないとまずい。贅沢な生活をしても、任期が終わったらその生活をやめなくてはいけないわけです。」ということで、社長の間も電車通勤を貫いた。
丹羽さんの家は、都心から離れているらしい。いわゆる、普通の通勤をするわけで、もちろん通勤ラッシュもある。
「運転手つきの車のほうが居心地はいいでしょう。でも社員はみんな満員電車に揺られて通勤しているんです。その目線からずれてはいけない。」
「たとえば電車通勤すると言ったなら、雨が降ろうが槍が降ろうが電車で出勤する。(略)これを陽明学では「知行合一」と言います。」
「また、孔子は「食」(=食料)と「武」(=武器)と「信」(=信用)を治国三要と言っています。このうち最初になくなってもいいものは武器です。次は食料です。最後に残さなければならないのは信用だと言った。「信なくして国立たず」というわけです。同じように信なくして会社は立ちません。つまり経営者が社員の信頼を得られなくては、会社は成り立たないということです。」
わかりやすい言葉。それでいて核心をズバっとくる。
そして繰り返し言ってるのは「クリーン、オネスト、ビューティフル」で、「こうした倫理観の骨格になるものは、武士道精神だと私は考えています。」と繰り返す。
丹羽さんは、「日本は島国で同じような民族、同じような文化の中でずっと生活してきたわけです。同じような価値観を持っていることが前提にありますから、突出した金持ちの存在を受け入れる素地が出来ていない。」と書く。そうかもしれない。
「二極分化して低所得者層が増えたら、中間層が減って個人消費も落ちるでしょう」という考え。中間階級が増えた時代の日本はとても豊かで、街は安全で、美しかったように記憶する。そしてなにより、多くの人がイキイキとしていた。
「エキサイティングな会社にしよう」エキサイティングな会社とは「まず、儲かっている会社、そして次に、儲かった分を分配してくれる会社ということです。」この考えは私も同じ。
そして具体的には「年収のうち一定比率を固定給(月給)、残りを変動給(ボーナス)にして、成果と実績に応じて支払うという形です。」(たまたまだが)現テレパスと同じ体制をとっている。私は何度も悩み迷いながら、この方式を提唱し、それでも春の昇給時には「これが正しいのか?」「テレパスに合っているのか?」と悩む事が多いけれど、この部分を読んでおもわずニヤリとした。同じだ(固定給の額は違うんですけどね)。
「見える報酬」と「見えざる報酬」
見えざる報酬というのは、「自分の成長です」という。「人は仕事によって磨かれる。仕事で悩み、苦しむからこそ人間的に立派になるんです。」
「武士道に学べ」では「家庭や学校で初めに教えなければならないのは儒教の五常「仁・義・礼・智・信」です。」
戦前/戦後の教育で大きく変わったのは、「週休2日」とか「ゆとり教育」ではなく、この部分ではないかと私は思う。私が子供の頃の先生は戦前の教育を受けた人がほとんどだったから、文部省が言わずともこういう教育があったのかもしれない。家には明治の教育を受けた祖父母もいる。それが終戦によって混迷し、そしておかしくなったように思う。
「十年後、役員の半分を外国人と女性に」というテーマがある。賛成!
大手企業の役員には女性がほとんどいない。おかしいよね。だって消費は女性で成り立ってるケースが多いのにさ。
ところで、ブックカバーをはずして見てほしい。そこには「汗出せ、知恵出せ、モット働け」と書いてある。これは「ある一流企業の社長室かけてある額に書いてある言葉だそうだ。「社員のいるフロアではなく、社長室にかけてあることに意味があるのです。社長室を来訪するような経営のトップこそモット働けと社員が背中を押しているように感じました。」
随所に心を打つ言葉が多くこの文書が長くなってしまった。ここに書ききれない大事な言葉は本を読んで、感じ取って下さい。