魚町の、実家の2階に上がり、ピアノにお別れを言うことにしました。
ピアノは、まるで私を待っていたかのように、そこにありました。
ピアノのふたをあけて、赤い布をとると、ピアノは、何もなかったかのように、すました顔をしていました。
ポロン。弾いてみる。
音がポローンと鳴る。
ポロンポローン。
鍵盤を見ていると、ここがこんなにグチャグチャになっていることを忘れます。
私は、初めてピアノを弾いた時のことを覚えていません。
2歳だったのか、3歳だったのか?
とにかく、物心ついた時には、ピアノを弾いていました。
先生にしかられながらレッスンしました。
その厳しかった先生は、この津波で亡くなりました。
ポロンポローン。
気の利いた曲を弾きたいけれど、何も浮かばず、とにかく即興で今の気持ちを音にしてみます。
それも、たいしたコード進行も浮かばないから、
FM7 Em7 Dm7 CM7 なんて、ありふれた進行で。
目をつぶります。
ありがとうピアノ。
幼い時は、ちょっと引きこもりで、
文字も読めなくて、落ちこぼれて、
それでも、楽譜は読めるし、楽器の演奏が好きでした。
カスタネット、ハーモニカ、リコーダー、ピアニカ。
音楽の授業が好きだったのはピアノのおかげです。
ありがとうピアノ。
あなたは、もうすぐ壊されてしまいます。
でも、ここから出してあげることが出来ません。
だから、ピアノ、今日は弾き納めです。
ありがとうピアノ。
たくさんの思い出をありがとう。